歌詞と著作権。ブログなどのサイトの記事を書く前に知っておくべきこと。

 

このサイトには、楽曲のYouTubeの埋め込み動画や、その歌詞を掲載した記事が複数あります。

でも、これって著作権侵害になっていないのでしょうか?

歌詞は作詞者に著作権があり、世間に出回っている多くの楽曲はJASRACが権利を信託されて、著作権利用料の徴収などの管理をしています。

もし私が著作権侵害をしていたら、ある日突然JASRACから著作権使用料を請求されることがあるかもしれません。

そこでこの記事では、
WEBサイトで歌詞を掲載する場合にはどんなことに気をつけなければいけないのか、
文化庁のサイトと弁護士さんが著作権について発信している情報を基にまとめました。
全て法律の専門家から得ている情報なので信頼性は高いです。

歌詞をWEBサイトに掲載しようと思っている方は是非参考にしてください。

 

基本的にブログなどのWEBサイトに歌詞を掲載するには許可が必要

商用・非商用を問わず、著作権のある歌詞をサイトに掲載するには、著作権者の許可が必要です。外国語の歌詞を日本語に翻訳したものも同様です。
※商用というのはアドセンスやアフィリエイト広告を貼っていたり、ECサイトのようにサービスや物を販売しているサイトです。非商用というのはこのサイトのように何も広告を貼っておらず、何も販売していないサイトです。

邦楽も洋楽も、著作権のあるほとんどの楽曲はJASRACが信託されて管理をしているので、JASRACに歌詞の使用料を払って掲載することになります。

使用料は商用サイトの場合、月額最低5000円
非商用サイトの場合、1曲月額150円

けっこう高いですね。

 

JASRACなどの権利団体を通さず著作権者に直接許可が得られるなら得ても良いとは思いますが、その場合は、契約上、著作権者とJASRACの間で話し合いが必要になるかもしれませんので、ちょっとややこしいです。

 

JASRACと音楽教室の著作権使用料の問題が起きた際に、宇多田ヒカルさんが下記のようにツイートしていました。
このような場合は著作権者の許諾が得られているわけですが、権利団体と宇多田さんの契約次第では使えないこともあるので事前に確認しておきたいです。


宇多田さんは個人のブログなどでも自由に使って良いと言っているわけじゃないので、著作権者の意図を読み違えてはいけませんけどね。

 

著作権者が亡くなって50年以上経っている場合には、著作権は消失するのでフリーで使えます。(ベルヌ条約7条(1))
ただし海外では70年が主流なので、TPPが発行したら日本でも70年になる可能性があります。

(2018.02.12追記)

日経新聞にこんな記事が出ました。
今後は70年になることが決定的になりましたので注意しましょう。

政府は小説や音楽の著作権の保護期間を現行より20年長い「作者の死後70年」にする著作権法の改正案を今国会に提出する方針を10日までに固めた。

1970年に制定された現行の著作権法は「死後50年」で、改正されればおよそ半世紀ぶりとなる。

経済協力開発機構(OECD)諸国の多くが死後70年としていることもあり、政府は3月8日にTPP11に署名した後、著作権法改正案を提出する予定。

成立した場合、TPP11の発効で施行する方向。2017年12月に交渉妥結した日欧の経済連携協定(EPA)の発効が先となれば、TPP11の発効前に施行する可能性もある。政府はいずれの協定も19年の発効を目指している。

引用元:小説や音楽の著作権、作者の死後70年に 20年延長方針

 

 

歌詞を無料で自由に掲載する方法

個人でブログやSNSをやっていて「ちょっと歌詞を載せたいだけ」というケースはよくありますよね。
そんな時に、いちいちJASRACの許可を得て、使用料を払って、とやっていると時間もお金もかかりまくってしまいます。

ここからは無料で気軽に歌詞を使用する方法について紹介します。

 

引用の形式を守って掲載する

著作権法には「引用」であれば、誰でも自由に歌詞を転載して良いと明記されています。(著作権法32条1項)

著作権法は著作権者の利益を守る法律であるのと同時に、文化的所産である著作物の公正で円滑な利用とのバランスも考えられているためです。

著作権法は、何でもかんでも著作権者の権利を守る目的で作られた法律ではありません。
文化の発展に寄与することを目的としている法律なのです。(著作権法1条)

 

引用、転載、盗用の違い

「引用」とは一体なんでしょうか?
「転載」や「盗用」とは何が違うのでしょうか?

引用には形式が定められていて、形式通りに表記していれば著作権者に無断で使用できます承諾は必要ありません。しかし、形式に則った表記でなければ引用と認められません。

転載とは、元の歌詞や文章をそのままコピペして掲載することです。
転載と言ったときには、著作権者に許可を得てコピペしている場合も、無断でコピペしている場合も、両方を含みます。

盗用とは、引用の形式に則っておらず、著作権者に無断で歌詞や文章を転載していることです。著作権(複製権など)侵害となり、法律違反です。
著作権者やJASRACから連絡が来て、コンテンツの取り下げや、損害賠償請求を受ける可能性もあります。非常に悪質な場合は刑事罰を受ける可能性もあります。

 

引用と認められるために必要なこと

法的に引用と認められるためには、引用の要件を満たした形式で歌詞を掲載する必要があります。

以下の要件を全て満たす必要があります。

①引用部分とそれ以外の部分が明瞭に区別されている

これは明瞭区別性と呼ばれていて、引用した歌詞と自分が書いた文章を明確に分ける必要があります。
これは難しいことではなくて、<blockquote>タグで歌詞だけくくったり、フォントを変えたり、色を変えたり、見た目で違いが分かるようにしておくだけでOKです。

②自分の著作物が主で、引用する歌詞が従になっている

これは主従関係と呼ばれていて、引用した歌詞よりも、自分で書いた文章が主要な意味を持っていなければなりません。
たとえば、歌詞だけを載せた記事では引用にはなりません。
「この歌詞すごい感動しました」とだけ書いて、歌詞を載せてもダメです。自分で書いた文章の内容が薄すぎます。
歌詞の意味を考察したり、ミュージシャンの詳しい情報など、他の内容を充実させた上で歌詞を載せるのであればOKです。
自分で書いた文章の分量だけではなく、歌詞という著作物の性質、引用の目的、表現内容なども踏まえて判断されるので、自分で書いた文章量が多くても内容がなければ引用と認められないし、逆に少なくても引用と認めれることもあります。
有名な判例としては『写真パロディ事件』や『中田英寿事件』があります。

③引用の目的が「報道、批評、研究など正当な範囲内」になっている

引用する目的に必然性が必要です。
といっても、難しく考える必要はなくて、引用した歌詞を商品のパッケージに載せて利益を上げようとするなど、明らかにおかしな使い方をしなければ問題ありません。
歌詞の場合は、批評や研究目的で引用されることが多いと思います。

④出所の明示

歌詞の場合は、曲のタイトルと作詞者の名前を書けばOKです(著作権法48条1項1号)

⑤引用する著作物は公表された著作物であること

普通はCDなどが販売されている曲の歌詞を引用すると思うので、その場合は公表された著作物ですが、
友達が作った歌の歌詞を引用したいという人もいるかもしれません。その歌詞が公表されていないものであれば自分勝手に引用できませんので、友達に直接許可を取ってから転載しましょう。

⑥著作者人格権を侵害するような利用態様でないこと

作詞者を誹謗中傷するなどの目的で歌詞を掲載したら、人格権侵害となり引用と認められません。

 

この中で一番重要とされているのは①と②です。

ただし、最高裁の判断も定まっていないので「引用の要件はこれだ!!」と明確には決まっていません。

個々の事例ごとに上記の要件に照らして総合的に判断されるので、実際にはグレーなケースが多いのが現状です。

 

引用でよく誤解されること

著作権法に詳しくない人が引用をする際に、よく誤解されていることを挙げておきます。

・出典を書いておけば著作権侵害ではない

出典以外にも、明瞭区分性や主従関係などを明確にしておかなければなりません。

・無断で引用したら著作権侵害になる

引用の要件を全て満たしていれば無断でも著作権侵害にはなりません。引用の要件をひとつでも満たしていない状態で無断でWEBサイトに掲載していたら著作権侵害となります。

・少しだけなら歌詞を変えて引用しても良い

歌詞を勝手に改変した場合は引用と認められません。

・商用目的の場合は引用が認められない

引用の要件を全て満たしていれば、商用目的のサイトでも引用が認められます。

・歌詞の全文は引用できない

ネット上の解説記事で一番多い誤解です。
多くの歌詞に関する著作権の解説文には「歌詞の全文は引用できない」と断定的に書いてありますが、文化庁は「全文でも引用の要件を満たしていれば可能」という見解を示しています。誰が書いたのか分からないネット情報よりも、監督官庁の見解が一番正しいでしょう。

引用の要件に合致するものであれば、必ずしも一節を超える(場合によっては全部の)引用が許されないものではないと考えられます。

引用元:文化庁 なるほど著作権質問箱

 

無断転載禁止などの注意書きは法的に無意味

たまに無断転載禁止と書かれた記事や画像などを見かけることがありますが、実は法的な効力は全くありません。

著作権者がパクられたくないために「脅し」として書かれているだけで、契約関係のない一般の引用者であれば自由に使えます。引用を禁止する権利は誰にもないのです。

ですから、もし自分の著作物を引用されたくないのであれば、世間に公表しないことです。それ以外に引用を防ぐ方法はありません。

またそのような脅し文句を書かなくても、どこかに申請しなくても、歌詞を書いた人に著作権は自動的に付与されますし、そもそも引用以外の無断転載は著作権法によって禁じられています。無断転載された場合は、ライセンス料として損害賠償請求をすることも可能です。

 

「無断リンクは禁止します」と書かれたWEBサイトもありますが、これも同様に法的根拠はありません。サイト運営者のただの希望であって、権利ではありません。

 

 

自由に歌詞を掲載できるブログ

JASRACが管理している楽曲の歌詞を無料で自由に掲載できるUGCサービス(ブログサービスや動画投稿サイト)もあります。引用の要件を守る必要もありません。

2017年4月現在、JASRACの歌詞を掲載可能なブログサービス

アメーバブログ

JUGEM

Seesaaブログ

Yahoo!ブログ

ヤプログ!

ライブドアブログ

楽天ブログ

これらの無料ブログはJASRACと利用許諾を結んでいるので、ブロガーは使用料や著作権を気にすることなく歌詞を載せることができます。

ただし非商用に限られますので、AMAZONや楽天などの広告を載せたい場合は、普通のサイトと同じく無料では使えません。

またJASRACが管理している楽曲に限りますので、例えば、JASRACが管理していないアーティストの歌詞を無断で載せることはできません。そのような場合は、引用の要件を守るか、著作権者の承諾を得てから載せましょう。

 

このサイトは著作権侵害をしていないか?

最後にこのサイトの記事は著作権侵害になっていないか、考えてみたいと思います。

具体例として参考にしてみて下さい。

 

私がこのサイトで紹介している楽曲についてJASRACなどの許可を得ていませんので、引用の要件を満たしていなければ著作権侵害になってしまいます。

ですから、引用の要件を守った形式で記事を書いています。

例えば、U2の『kite』という曲について書いた記事を見てみましょう。

U2『kite』 ボノと父、それぞれの思い

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①引用部分と自分で書いた部分が明確に分けられているか?

引用した部分は<blockquote>タグで囲ってあるので、明確に分けられています。

②自分の書いた部分が主であり、引用部分が従となっているか?

私が独自に創作した文章は6203文字、kiteの歌詞の引用部分は988文字です。
明確に私が書いた文章量が多いので「主」となっています。
内容も歌詞の考察の土台となるBonoの人生について多くを割いていますので、中身のある文になっています。

また日本語と英語は基本的に英語の方が文字数が多くなります。
例えば「色」を日本語で書けば1文字ですが、英語では「color」なので5文字です。
ですから、主従という視点で見た場合、英語(歌詞)の実質の文字数は半分以下です。

③引用の目的は正当な範囲内か?

この記事の目的は「BonoやU2の歴史を知ることでkiteの歌詞の本当の意味を考えよう」という試みです。これは作品の批評に当たるので正当な目的と言えます。

また「kite」歌詞の意味を正確に捉えるためには全文の引用が不可欠です。
引用をする際には、基本的には必要な一部分のみを転載すべきですが、この場合は削れる部分が一つもないので全文が正当な範囲となります。

歌詞は一部でなく全文掲載すれば著作権侵害となる可能性が高いという見解を持つ弁護士さんもいらっしゃいますが、文化庁はそうは言っていません。あくまでもケースバイケースですね。

例えば、詩の一種である俳句を考えてみましょう。
「古池や 蛙飛び込む 水の音」という松尾芭蕉の句。この詩を批評する場合に削れる部分なんてありません。一字一句、無駄な文字がありませんからね。

絵画の場合ではどうでしょうか?
絵画を批評をするときに絵画の画像の一部だけを引用して掲載することはないですよね

俳句や絵画は作品全体で捉えて初めて意味を成すものなので、批評をする場合、一部だけの引用では批評が不可能であることが多いです。
歌詞についても同様のケースが多いですね。

④出所は明示してあるか?

曲のタイトルと作詞者の名前を記載しているのでOKです。

⑤公表された著作物か?

CD、DVD、ダウンロードなどで販売されている楽曲なので、公表された著作物です。

⑥著作人格権を侵害していないか?

改変などもしていませんし、記事全体としてもBonoの人格を攻撃するような内容にはなっていません。

 

全ての引用の要件をクリアしていますね。
これで引用として認められるでしょう。

(※2018年10月2日追記)
何度か質問をいただいたので追記します。
外国語の著作物を翻訳することについても、引用の要件を満たしてれば著作権侵害にはなりません。
引用になっていなければダメですけどね。

 

歌詞を掲載しようと思った時に引用の要件を満たすには、結構ハードルが高いと思います。
歌詞の一部のみの引用であればハードルは低くなりますが、全文となるとそれなりの内容を独自に書く必要があります。

YouTubeの動画と歌詞だけを記載したブログ記事などをよく見かけますが、それだけだと、著作権者の承諾がなければ盗用と判断され、著作権侵害になってしまいます。
NAVERまとめのように、様々なサイトから情報を寄せ集めただけの記事も、引用の要件をまったく満たしていないので著作権侵害です。

引用と認められるには、自分で書いた独自の文章などの著作物が必要です。
この点が歌詞を引用する際の最大のポイントだと思います。

 

でもアーティストが努力して創ったものを無断で、しかもタダで使わせてもらおうというのですから、ちゃんと引用の要件を守るのは当然だと思います。

そして何よりも、著作権者や創作者に対して、感謝と尊敬する気持ちを持つことが大切です。
もし、引用者に著作権の知識が足りなくて悪意なく、間違って著作権侵害をしてしまっても、記事に「作品への愛」や「著作権者へのリスペクト」があるのなら、著作権者も「悪気は感じられないし、誰にでも間違いはあるから今回は許してあげよう」と思いますよね。
親告罪なので著作権者が見てどう思うかが重要だったりします。
※JASRACは愛があろうとなかろうと事務処理的に使用料を要求するらしいですが。

 

※この記事は2017年時点で調べたものです。今後、法改正等で大きく判断が変更される可能性があります。
また著作権侵害はグレーなケースが非常に多いです。A弁護士が判断すると著作権侵害でもB弁護士が判断すればセーフという事例が多々あります。そのため、心配事がある場合は安易に自己判断せず、著作権の専門家に相談した方がよろしいかと思います。

 

参考サイト

文化庁 Q&A 歌詞の引用は、一節であっても引用が認められないと聞きましたが、本当ですか

文化庁 著作物が自由に使える場合

ベルヌ条約 条文

JASRACが利用許諾契約をしているUGCサービス一覧

公益社団法人 日本広報協会 Q&A

 

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